リハビリテーション患者や被災者にとってのWell-being(ウェルビーイング)とは何か?

 「心と体を満たすことを、日常の当たり前に」をコンセプトに、心と体を満たす体験を創造するme-fullness(ミーフルネス)プロジェクト。me-fullnessの技術を活用し、リハビリテーション患者や被災者の方々のWell-being(ウェルビーイング)を追求すべく、東北大学とのコラボレーションを開始しています。

 そして今回、東北大学 指定国立大 災害科学 世界トップレベル研究拠点で研究活動をされている奥山純子さん、門廻充侍さんのお二人にインタビュー取材の機会をいただきました。

 インタビュー前半では、コラボレーションに至った背景についてお伺いします。そこには、どのような思いや期待があったのでしょうか。そして、me-fullnessのどのような点に共感いただき、どのような可能性を見出していただいたのでしょうか。

 お話しをお伺いする中では、苦難や困難を糧にして「よりよい人生を送るためのヒント」が見えてきました。(インタビューの聞き手は、POLA R&M me-fullnessプロジェクト Founder 本川智紀)

<お話を伺った方>

東北大学病院 肢体不自由リハビリテーション科
奥山 純子先生

東北大学 災害科学国際研究所
災害評価・低減研究部門 津波工学研究分野
門廻 充侍先生

リハビリテーションと防災の共通点

本川 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、お二人のお仕事内容や取り組まれている活動・研究について教えてください。

奥山さん 東北大学病院の肢体不自由リハビリテーション科に所属しています。リハビリテーション科とは「運動機能障害及び精神障害等の障害者を対象として医学的リハビリテーションを実施する診療科」です。

 同時に、「災害科学世界トップレベル研究拠点」という機関のメンバーとして「災害精神医学分野」の研究を進めているところです。この拠点は、東北大学が2017年6月に指定国立大学法人の認定を受け創設されたもので、さまざまな分野の人が集まって災害・防災について研究しています。

「リハビリテーション」と「災害・防災」、この2つの活動は全くフィールドが違うというわけではありません。災害はある日突然起こり、被災者はそこから徐々に元気を取り戻して日常に戻っていきます。リハビリに来る人も、突然の事故や病気で体の機能が低下してしまい、そこから復活していくわけですから、そこには多くの共通点があると考えています。

門廻さん 私は、現在津波被害で亡くなった犠牲者の研究をしています。研究チームで掲げているキーワードは「災害からの生存科学」です。

 防災の技術は日々進歩しているので、今後、津波災害による犠牲者は減っていくと思います。そして犠牲者が減るということは、「生き残る人が増える」ことを意味します。生き残った人は、自分自身の災害の経験と共に生きていく。そんな時代が来たときに、防災視点で一人ひとりのWell-beingにどのように貢献できるのか、それを考えることが重要だと思います。

 現状の防災は「災害が発生した際にどうやって生き残るか」に重きが置かれている、と自分なりに解釈しています。しかし、生存科学の構築という新たなチャレンジをするときに、本当にこれまでと同じ方向性で良いのか、という疑問が生まれました。もちろん、現状でも、心のケアなど生き残った人に対するサポートは存在します。一方で、生き残った人が増えていくことを考えると、新たなアプローチも必要だと感じました。

 だからこそ、「生き残るための方法」に加えて「生き続けるために必要なこと」も併せて、生存科学の構想で考えていきたいと思いました。

 そういった背景から、奥山先生と同じチームで活動を始めています。そして、防災視点でWell-beingについて理解を深めているとき、POLAさんのme-fullnessプロジェクトの存在を知り、今に至っています。

災害後の成長(PTG:Post Traumatic Growth)をどう促すか

本川 この度は私たちのプロジェクトに関心を持っていただき、大変ありがたいです。研究や取り組みを進めて行く中で、どのような課題が見えてきたのでしょうか?

奥山さん 例えば、「災害に遭う」「リハビリが必要な事故に遭う」ということは、決して幸福とはいえない、ネガティブな体験です。ですが、研究が進むにつれて、ネガティブな経験をしている人の方が、経験をしていない人よりも、心理的ダメージからの回復力が高くなることがわかりました。

 過去の災害や嫌な体験は、その時点ではすごく苦しかったり辛かったりします。ですが、苦難や困難を経て、その後の人生を豊かにしたり、乗り越える力を身につけたりすることができるのです。

 こうした経験はPTG(Post Traumatic Growth:心的外傷後成長)と呼ばれ、新たな研究対象となっています。

本川 PTG…よく耳にするPTSDとはまた違うのですね。

奥山さん 災害や大きな事件の後、メディアの報道などでもPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)という言葉をよく耳にしますよね。実は災害が起きた後、その災害が怖くて辛い思いをするPTSDよりも、PTGを実感する人のほうが多いと言われています。

 そう考えると人間って素晴らしいですよね。ネガティブな体験から新たな価値や人生の意味を感じる人は多いので、もっと多くの方にそのことを知っていただきたいですね。

 もちろん、「いかにして苦難や困難を乗り越えるか」が重要です。それは簡単なことではありませんし、方向性を間違えないように周囲の方々の支えも必要でしょう。しかし、誰もがネガティブな体験を糧にできるとわかったからこそ、「その経験をいかにプラスに働かせることができるか」、そのための方法を模索する日々です。

PTGのポイントは「人とのつながり」

本川 PTGにフォーカスして、その方法をこれから模索していくような段階にあるということですね。

門廻さん PTGの着想は、私が小児がんを経験した点が大きいと思います。私は10歳の時に小児がんを経験して、7ヶ月ほど入院しました。その後は、幸いなことに、周りの友人と同じような生活ができていました。2016年から「自分自身が小児がん経験者として、もっと若い世代に何かを届けたい」と考え、経験者の活動を始めました。

 もちろん、そこに至るには葛藤もあったのですが、これも専門的な視点から見るとPTGと捉えることができるかもしれません。

 私が防災の研究をしているのも、小児がんの治療やこれまで、いろいろな人に支えてもらったり、助けてもらったりした経験が影響しています。私個人の例ですが、自分自身の経験を振り返り、向き合い、意味づけして、自分自身の経験を素直に認める。この過程が成長につながっていると思います。

本川 PTGの「G(Growth)」を引き出すには、何が大事なのでしょうか?

奥山さん 明確ではないのですが、研究の枠組みの中では「人とのつながり」がキーワードになっています。人と繋がっている人の方が、そうでない人よりも良い結果が得られています。例えば、「一緒に暮らしている人の数」よりも「気軽に電話したり会いに行ったりできる人の数」が重要ですね。

本川 なるほど。人とのつながりですか。加えて、心に余裕があったり、他人に感謝できる状態であったりするかどうかも「人とのつながり」に影響がありそうですね。

 例えば、本来は感謝の心を持っている人でも、忙しく時間に追われていたり、ストレスでいっぱいになっていたりするときは、なかなかそんな余裕が持てないと思います。そういった人の心の状態を整えてあげることで、その人本来の感謝できる気持ちを取り戻すこともできるのではないでしょうか。

奥山さん 本当に忙しくて余裕がないときでも、実は自分に対してのケアはできるんですよ。私の気づきとして、たとえ心の余裕がなくても本当に状態が良くなっていく人は、「靴の紐をきちんと結ぶ」とか「肌の調子を整える」とか、身なりにも気を使っています。他人との関係性を深めるには、まずは自分を大切にすることが重要です。

本川 なるほど。まずは「自分を大事にする」という意識が根底にあるということですね。でも、なかなか自分を大事にする、ケアすることができない人も多いのではないでしょうか。

奥山さん そうですね。日々忙しい中では、夜中に暴飲暴食してしまうとか、お酒を飲み過ぎてしまうとか、自分を大切にしない方向に進んで行きがちです。でも、日々の行動や習慣を変えれば、少しずつ変化を生み出せるのではないでしょうか。そのための「きっかけ」が重要かな、とも思います。

 以前参加した日経Well-beingシンポジウムでme-fullnessの発表を聞いたとき、「自分の顔を映す」という機能が非常に面白いと思いました。自分の顔を映す瞬間が一日一回でもあると「まずい、ここにシワができている。ちょっとクリームを塗っておこう」というように、自分を大切にするきっかけになると思います。

 もちろんこれだけで病気が治るとか、ストレスが無くなるとは考えていません。でも、こういった気軽にできる習慣で自分を大事にすることが、自分自身の回復力を育むのだと考えています。


 >> インタビュー後編「me-fullnessにおける体験価値、その先にある『新たな可能性』とは?」へ続く




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